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平成中村座、4年ぶりに浅草へ帰還。浅草と歌舞伎を結ぶ180年の物語

本日1月18日、浅草寺のご本尊・聖観世音菩薩の「初観音」という特別なご縁日、浅草の街にとって嬉しいニュースが届きました。

2026年10月、浅草寺境内の仮設劇場にて「平成中村座」の公演開催が決定!

初観音は、古くから「芸能成就」や「商売繁盛」とも縁の深い日とされ、多くの芸人や役者が浅草寺に願いを託してきました。 この日に発表された平成中村座の帰還は、浅草の歴史を知る人々にとって、ひときわ象徴的な出来事と言えるでしょう。

十八代目中村勘三郎さんの「江戸時代の芝居小屋を現代に蘇らせたい」という熱い想いから、2000年に浅草の地で誕生した平成中村座。 浅草での公演は2022年以来、4年ぶりとなります。 中村勘九郎さん、中村七之助さん兄弟を中心に、伝統の灯が再び浅草に灯ります。

なぜ、平成中村座はこれほどまでに浅草という場所にこだわり、そして街の人々に待ち望まれるのでしょうか。その理由は、約180年前の江戸時代に誕生した「芝居の町」の歴史にありました。

浅草の奥座敷に誕生した、芝居の理想郷「猿若町」

かつて、江戸の芝居小屋(中村座・市村座・河原崎座)は日本橋や人形町といった都市の中心部にありました。しかし1841年(天保12年)、幕府による「天保の改革」の厳しい規制により、芝居小屋はすべて移転を命じられます。 その移転先となったのが、浅草寺の北東に位置する「聖天町」、のちの「猿若町(さるわかまち)」です。現在の住所でいうと、浅草寺から言問通りを越えてすぐ、浅草6丁目付近にあたります。

当時の人々にとって都心から離れた場所への移転は逆境でしたが、江戸っ子たちはこの地を、日本最大の演劇専用街へと発展させました。江戸の人々にとって猿若町は、少し足を伸ばして訪れる「非日常の空間」、江戸の「ブロードウェイ」や「ハリウッド」とも言える、活気あふれる不夜城となったのです。

歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」 江戸時代・安政3年(1856)

歌川広重が描いたこの浮世絵には、当時の猿若町の賑わいが鮮やかに記録されています。月明かりの下、芝居小屋が整然と立ち並び、夜遅くまで多くの見物客で溢れかえる様子。朝から晩まで三味線の音が響き、華やかな衣装の役者が行き交うこの光景は、江戸の人々にとっての憧れの地でした。広重が描いたこの猿若町の夜景は、決して過去の情景ではありません。平成中村座が浅草に建つとき、私たちはこの浮世絵の世界と、ほぼ同じ距離感と熱量の中で芝居を体験することになるのです。

歌川広重「東都名所猿若町芝居」 江戸時代・弘化4年~嘉永5年(1847~1852)

街全体が「舞台」だった浅草

浅草という土地は、歌舞伎の演目そのものにも深く息づいています。

例えば、名作『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』の舞台は、浅草に隣接する吉原。また『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』では、浅草寺の境内が重要なシーンとして登場します。 当時の観客にとって、芝居を楽しんだ後に、その舞台となった場所を実際に歩くことは、現代でいう「聖地巡礼」のような格別の楽しみでした。街と舞台が地続きであること、それこそが、浅草歌舞伎の真髄と言えるかもしれません。

今に息づく伝統:新春浅草歌舞伎と平成中村座

明治以降、大きな常設劇場は銀座などへと移り、猿若町の芝居小屋も姿を消しました。しかし、浅草と歌舞伎の縁が途絶えることはありませんでした。

その象徴が、毎年1月に浅草公会堂で開催される「新春浅草歌舞伎」です。若手俳優の登竜門として親しまれるこの興行は、今や浅草の正月に欠かせない風物詩。かつて猿若町で役者たちが競い合った情熱は、今もこの街にしっかりと根付いています。

そして、その歴史を「江戸の芝居小屋」という形ごと現代に呼び戻すのが「平成中村座」です。江戸時代の空気感をそのままに体感できるこの公演は、浅草が積み重ねてきた芝居の歴史を、最も濃密に感じられる特別な機会とも言えるでしょう。

浅草の歩き方:歴史の足跡を訪ねて

この機会に、浅草で歌舞伎ゆかりの地を巡ってみるのはいかがでしょうか。

かつて芝居小屋が軒を連ねた猿若町(現在の浅草6丁目付近)には、ここがかつて江戸三座の集まる興行街であったことを示す石碑が立ち、静かに歴史を伝えています。 ちなみに「猿若町」という地名は、江戸歌舞伎の始祖である中村勘三郎がかつて名乗った「猿若」という姓に由来しています。

実はこの「猿若町」という名前、昭和41年(1966年)に住居表示が変更されるまで、実際に大切に使われていた地名でもあります。 町名は「浅草六丁目」へと変わりましたが、今なおこの地には、芝居の街としての誇りと下町の人情が息づいています。

初観音の日に発表された、待望の再会。 浅草が再び歌舞伎の熱気に包まれるこの秋が、今から楽しみです。




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