
観光地・浅草の賑やかな表通りから一歩入った静かな路地裏に、昭和20年(1945年)創業の老舗とんかつ専門店「ゆたか」はある。戦後まもない激動の時代に産声を上げて以来、80年にわたり「食べて、心ゆたかになってもらえるように」という願いが込められた伝統の味を守り続けている。昭和の趣を色濃く残す店内は、日々丁寧に行き届いた掃除による清々しい清潔感と、気風のいい粋な空気に満ちており、過去には『ミシュランガイド東京』のビブグルマンにも選出された実績を持つ。
同店が初代より追求し、3代目の現在まで受け継いできたのは「胃もたれしない、軽やかなカツ」である。その完成度の高い味わいを支えるのは、選び抜かれた素材と熟練の職人技だ。主役となる豚肉には、長年、肉本来の豊かな甘みと旨味が際立つ群馬県産のブランド豚「やまと豚」を中心に使用。衣には、国産小麦の食パンを挽いた自家製パン粉をまとわせている。
もっとも特徴的なのは、その揚げの工程にある。揚げ油には高級な綿実油(サラダ油)をベースに、ほんのわずかな風味付けとしてラードを配合したものを使用。フライヤーではなく職人が銅鍋に向かい、約10分という時間をかけて丁寧に火を入れていく。綿実油で揚げるのはパン粉が付きにくいため高度な技術を要するが、これによって驚くほどさっぱりとした口当たりに仕上がる。さらに、一日の中で何度も油を交換し、常に水のように透き通った綺麗な状態を維持してパン粉の屑をこまめに取り除くことが、胸やけのしない軽やかさを生み出す秘訣となっている。
看板メニューの「ロースかつ」は、絶妙な火入れによって肉の中心がほんのりピンク色に染まり、上質な脂身の甘みが口いっぱいに広がる逸品。「ヒレかつ」も瑞々しく、肉本来の歯切れのいい繊維を存分に堪能できる。まずは何もつけずに、あるいは卓上の藻塩で素材そのものの味を愉しみ、その後、さらりとしたやさしい甘みのウスターソースでいただくのが同店の流儀である。また、大ぶりの海老や帆立、季節限定のカキフライ(10月〜3月)など、綿実油のさっぱりとした仕上がりがより際立つ海鮮フライも不動の人気を誇り、添えられる隠し味の効いた自家製マヨネーズも絶品である。
夜には、伝統のとんかつ定食だけでなく、焼鳥や新鮮なお刺身といった一品料理を日本酒とともに味わう割烹・和食居酒屋としての一面も持ち、浅草の夜を落ち着いた和風空間でゆっくりと過ごすことができる。

●住所
〒111-0032 東京都台東区浅草1丁目15−9
●公式サイト / SNS
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